静岡県環境衛生科学研究所

No.125


商品テスト情報

− 低価格のピアス −


 


 ピアス型イヤリング(以下、ピアス)等のアクセサリーを身につけたときに、皮膚が赤くなったり、かゆくなったりした経験はありませんか。
 このような皮膚トラブル(以下、皮膚障害)の多くは金属アレルギーによるもので、最近はおしゃれの低年齢化から、中学生や高校生の被害も増えています。
 そこで、ピアスを使用する際にこのような被害に遭わないためにはどうしたらよいか、低価格の商品を中心とした市販ピアスの問題点について調べてみました


=== テストしたのは… ===

静岡市内で購入したピアス20銘柄(価格1055,250円)です(表1)。内訳は、飾り、キャッチ(耳の裏側から本体を押さえる部分)及びポスト(耳に通す針の部分)の各部位からなるもの12銘柄(うちキャッチ及びポストがシリコン製のもの2銘柄)、飾り及びポスト(フック)からなるもの7銘柄、飾り及びキャッチからなるもの(マグネットピアス1銘柄です。




角丸四角形: ◆ 金属アレルギー
汗や体液で溶け出した金属がイオンの形で体内に入った場合に免疫の働きで異物と記憶され(感作)、次に同じ金属に触れたとき拒絶反応を起こして皮膚炎を引き起こす状態をいいます。一度感作されるとほぼ一生持続し、この状態自体は治療することができません。肌に直接穴をあけるピアスは、金属アレルギーなど特にトラブルの多いアクセサリーです。
◆ 金属アレルギーを起こしやすい金属
 ニッケル、コバルト、クロムが代表的ですが、アクセサリー等に使われることの多いニッケルが原因のトップに挙げられます。なお、金は溶けにくいので、皮膚の表面に接触するだけではアレルギーを起こしにくい金属ですが、ピアスのように皮膚の内側に直接触れた場合にはイオン化し、金属アレルギーによる難治性の結節(しこり)が耳たぶに生じることがあります。
◆ 金属アレルギーに関する製品の規制について
  わが国には法的な規制はありませんが、EUヨーロッパではニッケルに関して「皮膚と直接かつ長時間接触する製品は、遊離量が0.5μg/cm2/週を超えてはならない。」等の法律(EC指令directive94/27/EC)があり、これに適合しない製品の製造及び輸入が禁止されています。
  ピアスに関するアンケート調査を
  行いました
  

静岡県職員を対象に、ピアスの使用経験や皮膚障害に関するアンケート調査を実施し、2,156人から回答を得ました
(以下はその一部です)。

1 ピアスを現在している、または以前したことがあるという「ピアス経験者」は、全体の9.7%に当たる210人でしたが、このうち「皮膚障害の経験者」はピアス経験者の60%にあたる126人でした。
2   皮膚障害の症状としては、かゆみや化膿、炎症が多かったものの、実際に医療機関で「金属アレルギー」と診断された人は少数でした(図1)。
3 ピアスの購入時に重視する点としては、回答の多い順に「デザイン」、「値段」、「金属素材の種類」等であり、価格帯としては「1,0005,000円」と答えた人がピアス経験者の58.5%(123人)を占めていました(図2)。


        





● 市販ピアスの金属組成
  そこで、市販のピアスはどのような金属から構成さ れているのか、飾り20試料、キャッチ11試料、ポス ト17試料(全48試料)の各部位の表面金属成分(合 金及びめっき部分を合わせたもの)を調べました。
   調査した48試料のうち、多かったものは白金(Pt) 系や銅(Cu)系でした。また、ポストについては白金 (Pt)、チタン(Ti)、銀(Ag)といった金属アレルギー を起こしにくい金属を主要成分とする商品が多くみ られました(表2)。さらに、ピアスの各部位が同じ 金属組成からなる商品は少なく、20銘柄中15銘柄は それぞれ異なる金属組成の部位から構成されていま した。

 汗の中にニッケルはどのくらい溶け出すのでしょうか? 

 金属アレルギーは、汗や体液で溶け出した金属がイオンの形で体内に入ることにより起こりますが、溶け出る量が多いほどアレルギーを生じる可能性は高くなります。そこで、市販のピアスからアレルギーの原因金属が汗の中にどのくらい溶け出すか最もアレルギーを起こしやすいといわれているニッケルについて調べました。
 測定は、EC指令(基準値0.5μg/cm2/週)のよりどころとなっている、ヨーロッパの公的規格を用いて行いました。この方法は、人工的に作られた汗(人工汗液:尿素や食塩、乳酸等を含む)の中に1週間ピアスを浸漬した場合、ニッケルがどのくらい溶け出すか(遊離量)を測定するものです。
 結果を表3に示しました。調査した20銘柄中、ニッケル遊離量が基準値を超えたものは8銘柄ありましたが、いずれも価格は
1,050円以下でした。これらの商品は、必ずしもニッケルが主要金属成分の部位を含むわけではありません。また、今回調査した商品のうち、「ノンアレルギー」と表示されたものは2銘柄ありましたが、これらのニッケル遊離量はいずれも基準値を超えていました。

◆ ニッケルについて
  ニッケルは、アクセサリーやメガネのフレーム、ベルトのバックル、ボタン、ファスナー、硬貨といったさまざまな身の回り品に使用されています。ところで、なぜニッケルはこのように広く使われているのでしょうか。それは、ニッケル(ニッケルめっき)の有する以下のような特性によるものです。
    1       耐食性・耐磨耗性に優れている。
    2       光沢の優れた外観仕上げが可能
    3       低コストで加工しやすい。 
 ニッケルは、イオン化のし易さやその原子構造からアレルギーを発症しやすい金属です。また、汗の中の塩素イオンはニッケルを溶出させる作用が強いため、発汗と金属アレルギーの発症とは密接な関係があります。しかし、ニッケルめっきが施されたアクセサリーが原因で金属アレルギーを発症した場合には、表面に変色や腐食等の変化がないため、当初はその原因に気付かないことも多く注意が必要です。

テキスト ボックス: ■□■ まとめ □■□
1 アンケート調査の結果、ピアスの経験者のうち皮膚障害を起こしたことのある人は全体の6割と、非常に高い割合でした。
2 各部位(飾り、キャッチ、ポスト)がそれぞれ異なる金属組成から構成されたピアスが多いものの、ポストについては白金、チタン、銀といった金属アレルギーを起こしにくい金属を主要成分とする商品が多くみられました。
3 1,050円以下の市販ピアスの中に、金属アレルギーに関する注意が必要な商品が少なからず存在することがわかりました。
4 「ノンアレルギー」表示のある商品に、ヨーロッパの基準値を超えたものがありました。
       

テキスト ボックス: 《皮膚障害を起こさないために・・・購入するとき・使用するときのアドバイス》
1 汗を大量にかく暑い季節やスポーツで汗を流す時などは、ピアスの使用をなるべく控えましょう。
2 ピアスを購入する際は、信頼のおける店で金属の素材を確認しましょう。
3 成長期にあるお子さんは、皮膚の感受性が強く、大人よりも金属アレルギーを起こしやすいので、お子さんがピアスをすることを望むときは、その必要性等について、親子でよく話し合いましょう。
4 金属アレルギーの原因金属は、ニッケルとは限りません。心配な人は皮膚科などの専門医でパッチテストを受け、自分がどの金属にアレルギーを起こすのか診断してもらうとよいでしょう。
5 ピアス使用によりかぶれた場合、金属アレルギーを発症した可能性があります。使用をすぐに中止しましょう。できれば皮膚科を受診することをおすすめします。






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