静岡県環境衛生科学研究所

No.123


商品テスト情報

−海産物中のカロテノイド−


 

過酷な環境下で生き残ってきた海産物には、人間が生きる上で重要な機能を有している成分が豊富に含まれています。緑黄色野菜に含まれているカロテノイドには抗酸化作用等の機能があり、このカロテノイドが海産物中にも含まれていることはあまり知られていません。
 そこで、栄養成分や旨み成分を多く含んでいる静岡県特産の桜えびや、県内でも養殖され一般によく喫食されているわかめやのり等、海産物中のカロテノイドであるアスタキサンチン、フコキサンチン及びβ-カロテンについて調べました。


アスタキサンチン、フコキサンチンとβ-カロテン

角丸四角形: アスタキサンチン(Asthaxantin) 
鮭・えび・かに等の魚介類に含まれる赤色色素です。アスタキサンチンの活性酸素消去能や免疫賦活作用等についての研究が行なわれており、新規食品素材として大きな注目を浴びています。
アスタキサンチンは魚介類の体内でタンパク質と結びついている場合が多く、えびやかにを加熱すると赤く変色するのは、アスタキサンチンがタンパク質から離れて発色するからです。

フコキサンチン(Fucoxanthin)
 主としてわかめ等の褐藻類に含有され、黄褐色をしています。フコキサンチンには、抗酸化作用や抗肥満効果が見られるという研究報告があります。

β-カロテン(β-carotene、ベータ-カロテン、ベータカロチン)
 β-カロテンは、主に色の濃い野菜に含まれ、ヒトの体内ではビタミンAの働きをしていることは良く知られています。海藻類にはこのβ-カロテンも多く含まれています。
= テストしたのは… =

 市販されている
生桜えび4銘柄、桜えび加工品2銘柄、海藻類加工品14銘柄です。

えび中のアスタキサンチンの含有量は?


  図1に示したように、生の桜えび100g中には7.15mgと多くのアスタキサンチンが含有されていました。加工した素干し桜えびと釜揚げ桜えびは、それぞれ100g中に2.56mgと1.47mgであり、加工によりアスタキサンチンが減少することがわかりました。
 また、生の桜えびでは結合アスタキサンチンが全アスタキサンチンの89%を占めていましたが、一方、加工した桜えびでは、遊離アスタキサンチンの方が多くなっていました。

  さらに、一般によく喫食される他のえびについて、アスタキサンチンの含有量を測定したところ、くるまえびでは100g2.81mg、甘えびは0.40mgで、生の桜えびより少ないことがわかりました。
えびの部位別では?

  図2に示したように、くるまえび、甘えび及び冷凍のブラックタイガーを部位別に測定したところ、通常は喫食しない部位の殻・尾や頭の方に、アスタキサンチンが多く含まれていました。喫食する身の部分のアスタキサンチンは少なく、その量は殻・尾等の1/8から1/10でした。
アスタキサンチンを効率よく摂取するには

 生の桜えびに多く含まれている結合アスタキサンチンは、遊離型より吸収が良いと考えられ、さらに、桜えびは丸ごと食べることができます。こうしたことから、桜えびは、効率よくアスタキサンチンを摂取できる有用な食品であると言えます。
保存によりアスタキサンチンは減少するのでしょうか
 桜えびの保存によるアスタキサンチンの含有量の変化について、温度を変えて測定しました。図3に示したように、桜えびを冷蔵庫(2℃)、25℃及び37℃の遮光下でそれぞれ保存して2ヶ月後、3ヶ月後のアスタキサンチンの含有量を測定しました。その結果、25℃と37℃で保存したものは、アスタキサンチンがほとんど残存していないことがわかりました。また、冷蔵庫で保存したものでも2ヵ月後には68%に、3ヶ月後には38%に減少しました。
海藻中のフコキサンチンとβ-カロテンについて調べました

海藻中のフコキサンチンとβ-カロテンの含有量を表1に示しました。海藻類は色によって分類され、比較的浅い海に生息し成分が陸上の植物に似ている緑藻と、緑藻より深いところに生息して褐色をしている褐藻と、赤褐色をしている紅藻に分けられます。
 フコキサンチンは海藻類特有のカロテンと言われていますが、わかめに多く含まれ、ひじきや青のり、あおさにも含まれていることがわかりました。また、乾燥のりの中でNo.10のフコキサンチン量がNo.8、9より多いのは、No.10の原料に青のりが使われていたためと考えられます。No.89はあまのりという紅藻類が使われていました。
  β-カロテンはほとんどの海藻類に含まれていましたが、特にのりはβ-カロテン含有量が多く、また、わかめやあおさ、青のり等にも含まれていました。特別な調理を必要としないで食べられる乾燥のりは、β-カロテンを手軽に摂取できる有用な食品であると言えます。
 また、のり佃煮のうちNo.11の原料にはあまのりが、No.12には青のりが使用されており、β-カロテンの含有量の差はこの原料の違いによるものと考えられます。一般にのり佃煮は、青のりを原料にしたものが多いようです。
 

1 海藻類のフコキサンチンとβ-カロテン

No.

検  体

フコキサンチン

mg/100g

β-カロテン

mg/100g

1

乾燥わかめ1(褐)

63.70

2.16

2

乾燥わかめ2(褐)

31.60

0.50

3

塩蔵わかめ1(褐)

14.04

0.85

4

塩蔵わかめ2(褐)

12.52

0.81

5

塩蔵わかめ3(褐)

13.44

1.16

6

乾燥ひじき(褐)

 1.29

1.28

7

こんぶ(褐)

 0.06

0.10

8

乾のり(紅)

 0.46

5.00

9

焼きのり(紅)

 0.37

8.52

10

混ぜのり(紅+緑)

 1.39

5.97

11

のり佃煮1(紅)

>0.5

0.92

12

のり佃煮2(緑)

>0.5

0.16

13

青のり(緑)

 3.15

1.98

14

あおさ(緑)

 5.21

4.00

15

生青のり(緑)参考

 0.76

0.49

*注:緑;緑藻、褐;褐藻、紅;紅藻

保存によりフコキサンチンは減少するのでしょうか
  乾燥わかめの保存によるフコキサンチン含有量の変化について、温度を変えて測定しました。結果は図4のとおりで、乾燥わかめを37℃で保存すると、フコキサンチンは3ヵ月後には半分に減少し、冷蔵庫でも3ヶ月後には75%に減少しました。フコキサンチンを有効利用するためには、早めに使い切ることが望ましいのですが、保存する場合は、冷蔵庫に入れる等低温で保存した方が良いようです。
※まとめると※
角丸四角形:  桜えびには、アスタキサンチンが豊富に含まれ、また、海藻類では、わかめにフコキサンチンが、乾燥海苔にはβ-カロテンが豊富に含まれていることがわかりました。

しかし、素干し桜えびは、冷蔵庫であっても長期に保存すると、アスタキサンチンが減少することがわかりました。乾燥海藻類の保存でも桜えびほどではありませんが、フコキサンチンが減少してしまうことがわかりました。これら乾燥海産物は保存食ですが、長期に家庭で保存しないで、こまめに購入したほうが良いでしょう。

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